蘭の経済 気になる蘭のお値段

 

蘭は高いもの、高嶺の花だと一般に思われている。確かにそういう花もあり、よく見かけるものは現に数千円にもなり、たいした値段である。しかし、7000円だったシンビジウムの花の咲き終わったものが500円程度で売られており、これに適切な世話をすれば毎年咲き続けるものであるということを知る人は少ないようだ。花のない蘭は目立たず、売り場の隅に置いてあったりするので気がつきにくい。知らない人は葉だけを見てそれが何の植物かすらわからないという。

また、小さな蘭は花が咲いていても800円程度のものである。直径8cmに満たない鉢に生えている蘭(2.5号鉢)はちっぽけでたよりなさそうな植物でたちまち枯らしてしまいそうだが、実のところ他の植物に比較してかなり丈夫で滅多に枯れるものではない。絢爛豪華な蘭が棚に並べられてある店先においてあるそういう丈夫で安い蘭もある。

蘭は選べば相当多くの種類を1000円以下の安値でそろえることが出来、趣味としては以外とお金のかからないものなのである。一日一箱タバコを吸うおやじが蘭にはまってタバコをやめ、蘭を集めたとすれば、1年間の煙草銭で180鉢の蘭が家にあふれかえってしまうだろう。蘭にまつわる経済について考えてみた。

 

高い蘭

  大きな蘭は高い。場所を取るからである。蘭を出荷するためにはある程度の施設が必要になる。温度管理のための温室、それに投入する様々な設備、電気代、燃料代、水道代がそこに投じられる。しかしその設備に降り注ぐ日光は限られている。だから出荷できる植物の量に限界がある。大きな蘭ほど日光を多く受け取る必要があり、場所を取るためコストが高くなる。輸送料も高くなる。それらすべてが値段に反映している。思うに、日光は遮光するのではなく、一部吸い取ってグラスファイバーで日の当たらない別の棚に送るようにしてやれば場所代が節約できてコスト低減につながるのではないかと思う。そういう設備がまだない以上(あればオフィスの照明代も削減できるのにねえ)、設備投資が大きすぎてできないだろうし、そこまでするより温室を作る方がやすいのだろう。

 

シンビジウムは高い。大きいからである。万のつくものから安くても2980円程度、相場は5000円というところだ。しかし、その大きさ故売り切ってしまいたいのか1月になるとやけに暴落する。シーズンを過ぎると花も元気な4本立ち1000円、花なし500円という具合である。回収して再度育てればいいのにと思うのだけれど、そのほうがコストがかかるのであろう。大量に同じものを姿よくつくる農産物なので、回収していてはあわないのであろう。何でも年間300万鉢が生産されている、生産量最大の蘭だ。成長点培養(メリクロン)という技術でいくらでもクローンを増やせるらしい。大量生産が可能で、実際の開花時期である春とは時期をずらして晩秋から多量に出荷される。本来は春に咲く蘭なのだろうが、株のくたびれる夏場に標高1000m位の山に運び込んで涼しいところでたっぷり日光にあてて株を早く完成させて早く花を咲かせるため冬に入るやいなや出回る。開花した株は冬にあまり水を要求しないし、花の痛みも遅いので2ヶ月はたっぷり楽しめ、それゆえ喜ばれて付加価値がつくのである。

瀬戸内の四国側が産地のようだ。晴天率が高く、山あげに適した冷涼な山が近いからだろう。

 

胡蝶蘭(ファレノプシス属および近縁のドリテノプシス属)は万のつくものが多い。大きな鉢で4万、というのを頻繁に見る。本体の株は安いのだが、育成と開花にシンビジウムよりも高い温度を要求するため加温設備が必要なのはもちろんのこと、美しく並べるためには技術が必要だし(咲かせるだけなら一般家庭でも出来る)、寄せ植えにして豪華に仕立てるのもプロの技なので、その装飾技術を買っているようなものだと思う。このような高価な鉢は開花期間が2ヶ月がざらなので、同じ豪華さを切り花で達成するよりも経済的になる。

胡蝶蘭は種から増やす。種から発芽させるのには技術が必要だが、多量に株を得ることが出来る。胡蝶蘭は、芥子粒のような種から開花可能な株に育つまで3年程度と比較的短いというメリットもある(多くの蘭は5〜7年程度)。だから一株一株は安い。花がいくつか落ち、みてくれからプロの技が解けた状態で15000円が一気に1000円程度にまで落ちる。この安い鉢を買うと中からごろりと3株ほどの胡蝶蘭がでてきて、それぞれ素焼きの鉢で育てると実はごく簡単に花を咲かせることが出来る。そういう株は野放図に根や葉や花茎を出して伸び、ちゃらんぽらんな方向に花を咲かせる。プロの鉢の均整美こそないが、それはそれで趣があり、生命力を感じるすてきな鉢にはなる。胡蝶蘭はしかし、株が分かれて増えたりすることは滅多にない。

 

デンドロビウム4000円から8000円が相場というところの蘭だ。通常寄せ植えになっている。花がびっしりと咲き、これも2ヶ月以上はたっぷりと鑑賞することが出来る。バルブと呼ばれる棍棒状の植物体を節ごとに切って植えておくと簡単に株を増やすことが出来るという。

デンドロビウムで良く流通しているものに通称デンファレと呼ばれるものと、フォーミディブルとよばれるものがある。デンドロビウムが冬とすれば、フォーミディブルが春から初夏、デンファレが秋から冬にかけて咲く。それぞれ花の見てくれは似ていないし、世話の仕方が異なっているが同じ属である。

 

オンシジウムは黄色い花がたくさん枝について咲いている蘭だ。これも4000円以上する。花も2ヶ月程度楽しめる。

 

以上がシンビジウム、胡蝶蘭、デンドロビウム、オンシジウムという4大消費蘭で、取り扱いが容易、生産性が高く、付加価値が大きく、生産量が多くてとくによく見かける種類である。日本は世界有数の蘭消費国である。どこのスーパーでも蘭を見かけると言うことは、日本中に何万トンという蘭があることを想像させる。

このほか、バンダまたはその近縁のアスコセンダという蘭を見かけるようになった。胡蝶蘭によく似た取り扱いと値段で、量は多くないものの取り引きが増えつつある。バンダは、東南アジアで育成し、日本で開花させているという。高いもので1万円、安いもので1900円程度だった。著者はたいそう立派な大株で美しい青色のバンダを1900円で購入した(3800円の半額処分だった。通常あり得ない金額だと思う。デフレスパイラルが叫ばれていた頃の特異現象だったのかと思う)。その株は株から長い根が50cmも垂れ下がっていたため、全長1mを超える茶の間には異様な植物であった。この姿が本来の栽培に適した姿である。これをきれいな陶器の鉢に入れラッピングをして売るとしゃれた鉢物にみえるが、値段も上がる。

これらの蘭に共通しているのは、開花期間が2ヶ月程度、世話があまりいらない(めったに水をやらず、日に当てなくても株の栄養で花を持続する)、両手で抱える大きさ、5000円から1万円程度の値段、消耗品扱い(花を見ている間消費者は日に当てないので弱る)、というところだろうか。最後の消耗品扱い、というのはかわいそうだが、持ち主がどうしていいかわからず、よわりはてて朽ちてゆく蘭、捨てられてしまう蘭を多く見かける。都会では日当たりが悪く、これらの蘭は日光を多量に要するので育成が困難であるし、栽培に適した植え方になっておらず、かろうじてシンビジウムのみが生き残れて街の軒下に姿を見ることが出来る。首相官邸のように季節ごとに交換するレンタル契約を各家庭と結ぶ、ということは出来ないのであろうか。ダスキンなんかはできないのか?

 

パフィオペディラムフラグミペディウムにはむちゃくちゃ高いものがあるようだ。パフィオはパフィオ好きを惹きつけてやまない強烈な魅力があるようだ。しかし彼らの悲劇は、すばらしい株があってもこれを簡単に増やせないということだ。株が分かれるまで待つしかないのである。それしかある優れた固体と同一の遺伝子を持った固体を増やす手がないのである。つまり、ランの世界でよくしられたメリクロンにより増やせないのだ。種から増やしても、優れた株の形質をそっくり受け継ぐことは出来ない。魅力があって、数がないとなればときにすごい値段になるのは想像に難くない。しかし店頭に出回っているパフィオは800円程度のものもかなりある。これは、よい固体を作出しようとして種子をつくり、育てて咲かせてぱっとしなかった固体が多く安く出回っているためと思える。

 

大きな蘭といえば大輪のカトレアも高い。相場は4000円以上というところだ。大輪のカトレアはブラソレリオカトレアというものがほとんどだ。大きく、色鮮やかで、香りがよいものが多い。しかしこちらは滅多に見ることがない。開花期間が2週間程度であるためだろう。蘭の女王と呼ばれる豪華な蘭だが、ほとんど流通していない。

 

ミニカトレアはあまり高くはないが2500円から580円というところで小さな鉢に入って園芸店などで売られている。著者はこのミニカトレアのうち、花のない株を気に入ってこれを咲かせ、蘭にはまってしまった。思うに、このようなミニカトレアはこれまで述べてきた大きな鉢の蘭にくらべ、より人のいるところに接近できるため(玄関のシンビジウム、窓辺の胡蝶蘭、テーブルの上のオンシジウム、クロゼットの上のデンドロビウムよりも机の上のミニカトレアの方が目にする時間が長くて効果が大きい)、この方面に関心のあった人を魅了し、蘭全体への関心と購買欲を喚起する効果があるのではないかと思う。言ってみれば蘭の切り込み隊的な役割がある。

蘭の業界は、有名タレントにでもこのような蘭を送り倒し、かのタレントを籠絡した上で机上蘭の効能を説かしめ、もって一大販拡キャンペーンを展開し、蘭の普及につとめることがよろしいのではないだろうか。大量消費でCO2をむしろ増加させるような大鉢の蘭を生産流通させるよりも、手元に置いて慈しむ机上蘭へと商売の重点を移すことが新しい市場の開拓につながり、蘭業界の持続的な発展、むなしく遺棄される無辜の蘭を減らし、ひいてはCO2の削減、地球温暖化の防止に寄与すると思うのだがいかがか。

 

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